2007年8月13日月曜日

「善き人のためのソナタ」鑑賞。


2006年ドイツ映画
フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督作品

1984年ベルリンの壁崩壊前、共産主義の東ドイツを舞台に織り成すヒューマンドラマ。
物語展開も面白く見ごたえ十分で、かつ人物描写も豊かでとってもよく出来た作品だ。

国家保安省の局員ヴィースラー(ウルリッヒ・ミューエ)は、劇作家のドライマン(セバスチャン・コッホ)と恋人で舞台女優のクリスタ(マルティナ・ゲデック)が反体制的であるという証拠をつかむよう命じられる。ヴィースラーは盗聴器を通して彼らの監視を始めるが、自由な思想を持つ彼らに次第に魅せられていく。

全体を占める曇り空の落ち着いたトーンが、抑圧された人々の心理をよくあらわしており見事である。
割と静かな映画かなと思いきや、物語のテンポは予想以上によくて退屈せずに観ることができた。
ヴィースラー、ドライマン、クリスタ3人それぞれが共産主義国家の元に三者三様の悩みや葛藤を抱えながら終盤の悲劇へと収束していく様は実に美しく悲しい。特に国家側の人間でありながらも、盗聴していくにつれてドライマン達に魅かれていき、次第に業務遂行から道を外していくヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエの演技は見事である。冷徹そうな表情の中にもどこかで人恋しさ隠せない孤独な男を実に上手く演じている。

そしてベルリンの壁崩壊後にドライマンが自分の盗聴記録を国の記念資料館で閲覧する場面が素晴らしい。
椅子に座って自分自身について密かに行われていた盗聴作戦の沢山の報告書を読む場面では、歴史のおろかさと悲しさ、やるせなさが深い波となって観る者の心に押し寄せる。実に感動的である。

そして全てが過去となったラストでは、ほんの少しのやさしさと希望を画面に映してこの映画は幕を閉じる。このラストは決して派手ではないが実にここち良い。観る者は上品なカタルシスを感じる事ができるはずだ。

安易に泣かせる展開に頼らずに、史実を軸にじっくりと丁寧な作りで観る者の心に深い余韻を残す作品だ。
暑い夏の午後にカーテンで部屋を暗くして、しっとりと涼しみながら観るにはピッタリな作品である。
(生涯596本目の作品)

SUN SET LIVEまであと18日!!

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