2010年1月31日日曜日

「ぐるりのこと。」観賞。


橋口亮輔監督
2008年日本映画

去年からずっと観たかった作品なんだが地元のビデオ屋にはなくて
ツタヤディスカスで借りてようやく観賞。

ずっしりと重い作品だった。
主演の2人が素晴らしい。
描かれる時代は1993年から2001年。

バブルの絶頂から
阪神大震災、地下鉄サリン事件などなど
不安と混迷の時代へ突入。

時代と添い寝するように主人公の夫婦生活も明るいオープニングからじょじょに混迷の一途をたどる。

リリー・フランキー演じる主人公の仕事が裁判の傍聴席を描く絵描きであり、
この8年間に日本で起きた数々の凶悪事件の裁判の模様が作品中で(多少アレンジを加えて)描かれる。
この設定は見事だ。
全く反省していない連続幼児殺人犯、
人助けをするつもりで出家したのに人殺しをしてしまった事を悔いる新興宗教の信者、それを傍聴席からお経を唱えながら見守る他の信者たち、
小学校に入り込み児童を何人も殺した殺人犯は「もっとやればよかった」と言い放つ。

そこで描かれているのは一貫して「他人の心はわからない」という状況であり、
これはそのままクライマックスのリリー・フランキーのセリフにもなっている。
精神が不安定になっていく木村多江の表情と演技は見事で目が離せない。

それでも絵画などを通して夫婦は静かに再生していく。
どんなに世の中が混乱し、理解できない「めんどくさい」状況が次々と起こっても、
美しい草花や心が安らぐ風景もまたいつの世にも必ず存在するのだ。

木村多江は「ちゃんとしていたい」だけなのに、子供の流産をきっかけにどんどん歯車が狂っていってしまう。
リリー・フランキーは幼い頃の父の自殺をきっかけに、基本的に人を信用しないままのらりくらりと暮らしている。
この2人の夫婦の性格が全くあわないのだが、
それでも「好きだからいっしょにいたい」というただそれだけのつながりで時代を乗り越えていく。
恋愛ってそんなものなのかもしれない。
主演2人から漂う空気のよさで見事な恋愛映画になったと思う。

以上、見ごたえのある作品だった。
(生涯696本目の作品)

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