2007年7月10日火曜日
石田衣良「約束」
先週末に購入した石田衣良の「約束」。
あっという間に読んでしまった。
「かけがえのないものを失くしても、いつか人生に帰るときがくる。」
帯に書かれているこの言葉とおりの内容の7つの物語からなる短編集。
7つの作品はそれぞれ主人公の年齢も設定も違うのだが、共通しているのは日常に大きな事故や喪失を味わい、それが原因で人生に希望を見出せずに、どこか人生をあきらめながら、戦うことから逃げながら暮らしている人々が、何かをきっかけにまた希望を抱いて再生していくという点だ。
「なんで私だけこんな目に」というセリフが頻繁に出てくるが、このセリフ自体人間20年も生きていれば多かれ少なかれ誰もが一度は思うことであり、非常にリアリティがある。
それぞれの物語はダイビングやモトクロス、カメラメンなどやや専門的な世界を舞台にしているが、ディティールの描写が実に丁寧で緻密なので自然に物語に引き込まれてあっという間に読み終えてしまう。
個人的には、冒頭の池田小児童殺人事件をモチーフにした「約束」がもっとも衝撃的であり感動的であった。その次に良かったのは「夕日へ続く道」かな。
この2つはそれぞれ主人公が小学生と中学生の男子だ。
筆者は人生に希望を見出せない子供のデリケートな心理描写が実にうまいと思った。
「夕日~」の主人公のような中学時代の思春期の少し屈折した精神状態は、誰もが共感できる部分じゃないかと思う。
それとは対照的に大人が主人公の物語になると、どうしてもセリフに頼った説明的な展開になってしまう気がした。ラストの「ハートストーン」なんて読者に無理やり「泣け」といわんばかりの内容とセリフのオンパレードで逆に興醒めだった。。
あと非科学的な要素のある「天国のベル」もダメだった。こういうのは正直なんでもありじゃないかと思ってしまう。「いま会いにゆきます」みたいな。「裏技つかってでも泣かせます」という意図が気にいらない。
とはいっても「喪失からの再生」という分かりやすいコンセプトで全ての物語がきれいに貫かれているために非常に読みやすく、読み終わった後の余韻も良い。
というわけで少し人生に疲れている方、「自分が世界で一番不幸なんじゃないか」とか思っている方にはオススメの作品。これを読んで人生が変わることはなくても、少しは気が楽になるのでは。
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