2011年7月20日水曜日

桐野夏生「グロテスク」


「OUT」に続いて読んだのが「グロテスク」。
これまた面白かった。
面白いといっても内容はドロドロですが・・・。

フィクションとはいえ、
佐藤和恵については東電OL殺人事件をベースとしているし、
それだけではなく、Q女子高(これは明らかに慶●のことですな)のエリートであるが故の独特な世界や、
無差別テロを起こした某宗教団体など、現代日本を現実にとりまくいろいろな闇が随所に描かれていて充実の内容だ。そのどれもが平和に暮らしている一般の日本人、むしろ社会の上層部の裕福な日本人が陥ってしまう闇である。

この作品は3人称では語られずに、
登場人物それぞれの語りや、日記の記録など、常に物語は「1人称」で語られる。
そのほとんどがみな「悪意」や「嫉妬」の塊であり、みながみな自分の都合のいいように「嘘」をついているというのが読んでいく内にわかっていくのが恐ろしい。客観的な語り手がいないだけに、読者は誰の言っていることを信用していいのかが全く分からなくなってしまう。
こういった本は初めて読んだ。2度、3度と繰り返し読んでみても面白いに違いない。

唯一の例外はユリコであろう。
人間離れした美しさが故に生まれ持っての娼婦となってしまう彼女は
おそらく嘘はあまりついておらず、この作品中もっとも強く自分に正直に生きたのではなかろうか。

というわけで、「悪意」の塊の本ではあるが、
なかなか充実した力作であった。
他にも読んでみるかな。

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